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紫色の月光

紫色の月光

第四話「愉快な家族」

第四話「愉快な家族」



「データがありました。ダーインスレイヴ。NS社が開発していた新型の機動兵器。その最大の特徴は胸部の主砲ですね」

 戦艦、フィティングのとある室内では少女の声とキーボードを叩く音が聞こえていた。少女の名はマラミッグ・マガンダン。俗に言う天才少女である。因みに、フィティングのオペレーターを担当している。年齢は12歳。

 彼女は見た目からして軍人だとは思えない格好だった。トレードマークの雪だるまの髪止めにバンダナはまあいいとして、今の彼女の服装はパジャマなのだ。部屋の時計は11時を指している。良い子は寝る時間なのだ。

 そしてノートパソコンの画面を食い入るように見ている二人の男もいた。

 エイジ・ヤナギとシデン・イツキの二人である。彼等二人は彼女に頼んでダーインスレイヴのデータを見させてもらっているのだ。

「いやぁ、申し訳ない。普段なら寝ている時間にお邪魔しちゃって……」
 
 シデンは申し訳無さそうな顔をしてマラミッグに頭を下げる。

「個人的に興味があるんで気にしないでいいです」

 が、彼女はきっぱり言い放った。

「ところでよ」

 そこに、エイジが言う。彼は先ほどから気になっていた単語の説明を求めており、

「NS社って何だ?」

『…………』

 二人は沈黙した。マラミッグは表情には出さない物の、横にいるシデン同様に呆れている。

「ノーススカイ社。数年前から機動兵器の開発に力を入れていて、主な代表作は『アルファレオン』と呼ばれるステルス機です」

「結構有名なんだよ? 地球や月、今では火星や宇宙ステーションまで手を伸ばしてるんだから」

「と言うか知らない方が変です」

「悪かったな!」

 エイジは赤面して怒鳴った。よほど恥ずかしかったのだろう。

「まあ、それはいいとして………ダーインスレイヴの詳しいデータを貰える?」

「はい、分かりました」

 画面のダーインスレイヴはカイトの黒の機体と違う部分があった。それは黒の翼である。

 カイトは「本来なら翼なんてない」と言っていた。実際そのとおりだ。翼なんて物はついていない。

 そして噂の黒い機体は今、その翼を休ませていた。





 Xコロニー・716。

 そのコロニーはNS社が運営している工場があり、今時珍しくも連邦の支配下におかれていないコロニーである。

 一年前のシャドウミラーとの戦いが終わってからそんなに時間が経たないうちに連邦軍は各コロニーを自分達の支配下に置こうとしていたのだ。要は支配政治をしたいだけである。しかし、このXコロニー・716の様に支配し切れていないコロニーも存在しているのが現実である。

 そんな連邦で今問題なのはカイト達の目茶苦茶とも言える連邦コロニーへの攻撃だった。これがきっかけになって各コロニーが一斉に反乱でも起こしたら非常に厄介である。

 そんな、Xコロニー・716の中には和風の屋敷がある。見た感じ旅館の様な広さである。

 その屋敷の門の前には三つの影があった。

 カイト・シンヨウ、ユイ・シンヨウ、アキナ・サナダの三人である。

 三人はカイトを先頭にしており、躊躇いも無く敷地内に踏み込んだ。何故そこまで躊躇いが無いのかと言うと、

「今帰ったぞ。貴様等ちゃんと生きてるだろうな?」

「お、お兄ちゃん! もう少し言い方があるんじゃないかと……」

 この屋敷は彼等の家なのである。自分の家に入るのに躊躇いもクソもない。

「お、カイト。帰ったか」

 玄関にいたのは白衣を着た金髪の青年である。白衣の胸ポケットには名札がついており、『エリオット・ルイス』と書かれている。

 エリオットはカイトとは5年の付き合いになる。アンセスターとの戦いの時からの知り合いであり、アンセスターとの戦いが終わった後はカイトと共に冒険をした仲でもある。

「エリオット、悪いけど急ぎの用事だ。ガレッドとトリガーは―――――」

 そこまで言いかけた瞬間、カイトの視界はある男の姿を認めた。

 男は赤い髪で、耳にピアスをつけている。カイトはその男に話し掛ける。半分苛立った口調で、

「………おい、何でお前がそんなに普通に家に居座っているんだ?」

 すると、男は振り返ってカイトに返答する。

「いや~。実は結構ここが気に入っちゃったんだな、これが」

 男はやけに明るい口調で言う。

 彼はカイトがフィティングに乗り込んだ時の入れ替わりの被害者であり、名前をアクセル・アルマーと言った。

 そのやけに明るい口調と、憎めない性格で、何時の間にかこの家に居候として住み着いているのだ。

「おい、エリオット。ちょっと」

 カイトはエリオットに手招きして、アクセルや他の家族に聞こえないように話をし始めた。

「おい、あいつ本当にあれが素なのか?」

「嘘発見器やカツ丼を使って調べてみたが、やはりあれが素だ。私たちが知っているアクセル・アルマーとは別人だよ」

 カイトとエリオットはアクセルと面識がある。とは言っても、別の世界のアクセルと、だ。

 一年前のシャドウミラーとの戦で、彼等はシャドウミラーに所属しているアクセルと接触したのだ。

 その時にカイトは大切な人をシャドウミラーに殺されている。その為、あまりアクセルを快く思っていないのだ。別世界の人間とはいえ、シャドウミラーのアクセルとの違いは性格くらいな物で、顔は全く同じなわけだから余計にカイトはやりづらい。

「しっかし………幾らなんでも性格が違いすぎやしないか?」

「確かにな………性格がまるで正反対だ。やりにくいったらありゃあしない」

 エリオットも同感だった。シャドウミラーのアクセル・アルマーは泣く子も黙る冷酷な男で、こちらの世界のアクセル・アルマーはまるでコメディ番組にでも出てきそうなノリの持ち主である。性格が違いすぎるのだ。

「あれ? 帰ってきてたんですか? リーダー」

 そこに声が聞こえてきた為、二人は会話を中断して声の主を見た。

 エメラルドグリーンの髪と瞳を持った少年、トリガー・マークレイドである。

 彼は普段はコンビニでバイトをしており、年齢は18歳だ。一応、外見は美がついてもいい少年である。入り口からやってきたのを見て、カイトはトリガーがバイト帰りなのだと知った。

「おう、でもまた出るぞ。ガレッドは何処だ?」

 ガレッド・バスタード。彼はアクセルの様な赤い髪の持ち主で、トリガーと同じ18歳。これもトリガーと同様でコンビニでバイトしている。

「あいつは今日、遅いですよ。確かリオンヘクトさんの宿題を終わらせてないからって言って図書館へ」

「あの馬鹿……宿題は出来るだけ早く終わらせろって言ってるのに」

「うーん、でもリオンヘクトの宿題はかなり難しいんだな、これが」

 横からアクセルが会話に参加してくる。カイトはアクセルの方に向き、

「お前、やったのか?」

「んー、やったにはやったけどさっぱりだったんだな、これが」

 尚、リオンヘクトとはこの家に住む、青年である。高校で教師をして稼いでおり、年齢は27歳。

 この家の家族の中で本来なら学生をしているはずの者は皆リオンヘクトから勉強を受ける事になっており、毎日難しい宿題が出ている。

「そういえばあいつ、野球部の顧問を始めたんだっけか」

「はい、何でも、弱小だからいずれ甲子園にコロニー代表で出場させてやる、って燃えてましたよ」

「はぁ、あいつらしいな。………エミリアは?」

 それに答えたのはエリオットだった。

「エミリアはNS社にまだいる。行ってやれ、お前がいないからあいつはずっと書類片付けなんだぞ」

「うっ………」

 それを聞いたカイトは言葉に詰まってしまった。

 エミリア・ショートルはこの家に住む女性である。彼女はNS社で働いており、年齢は20歳だ。

 尚、この家にはアクセルを含めると合計で10人が住んでいる事になる。なので、働ける奴は総動員で稼いでいるのだ。そうでないといろいろと生活に支障が出てしまう。

 因みに、アクセル以外の全員が連邦軍に研究サンプルとして捕らえられていたジーンである。無論、それぞれが個性的な能力を持っている。

「む………仕方が無いな。行けばいいんだろ、行けば」

「お、社長さんついに会社に行きますか!」

「その言い方止めろ! 俺はあくまで臨時社長だ!」

 そして働いているメンバーの中でも一番高い位置にいるのがカイトである。今の彼はNS社臨時社長と言う、変わった位置にいるのだ。

 しかし臨時とはいえ社長は社長だ。それが長い間社を離れるわけには行かない。

 そもそも、何で彼がそんな位置にいるのかと言うと、元々彼等を連邦から助けて保護してくれたのはNS社の社長だったからである。

 その社長が数ヶ月前にアンチジーンに殺されてしまい、彼の遺言に従ってカイトが臨時社長を勤める事になったのである。

 尚、遺言の内容はこうだ。

『いいか、お前達。お前達は何が何でも生き残るんだ。………そして頼みがある。私には娘がいてな。一人娘だったのだが、私が社長をしているなんて知らない。しかし、もしかしたらあの子が戦いに巻き込まれてしまうかもしれない。そこで、だ。お前達があの子の助けになってやって欲しい。そしてもう一つ。社の事だが………カイト、お前に任せる』

 その時のカイトの反応はこうである。

『……………ほえ?』

 行き成りの事だったので訳がわからなかったのだろう。

 そもそも、何で自分に任せたのかがカイトは不思議だった。いや、カイトだけではなくて他のメンバーも不思議だった事だろう。社長の代わりになるなら他のトップの人間に任せればいい話なのだ。それなのに何でカイトなのだろうか。

 因みに、カイトは当事NS社で開発関連の仕事をしており、幾つかの機動兵器を作り上げている。

『その理由は………この戦いで一番決着をつけたがっているのがお前だからだ。だから決着をつけたいのなら、お前が自分で、自分の矛を作れ。その為にNS社を利用すると良い………! あの世でアンチジーン10人全員と面会するのを楽しみにしているぞ』

 その言葉を最後に、NS社社長はその人生を終えた。

 こうしてカイト・シンヨウはNS社『臨時社長』として働く事になった。そしてその地位を利用してダーインスレイヴと言う機体を作った。単機で、例え1億、1兆の敵でも倒せるような力を手に入れたいがために。

 しかし、実際には彼はそんなにたいそうな事をしているわけではない。社長としての仕事はその殆どが同じ職場のエミリアに任されているのだ。カイトは常に家事に戦闘で時間を潰しているのだ。

 正直に言うと、余り自分は社長なんて役職は似合わない、カイトは自分で思っている。早いところ社長に相応しい人に預けたいと思っているのだ。


「あれ? そういえばスバルは?」

 トリガーの疑問の声でカイトは溜息交じりに振り返って、言う。

「気付くのおせーよ、馬鹿。あいつはヘマやらかして捕まっちまった。だから、お前とガレッドについてきて欲しい」

「ガレッドはいいとして、何でトリガーまで?」

「………出来るだけ早いうちにアンチジーンを全員始末したい。その為に、トリガーの力が必要だ」

 トリガーは自分の力が必要だ、と言われたのに満足したのか、笑みを浮かべてながら言った。

「では、ガレッドにはこっちから連絡しておきます。リーダーはエミリアさんの負担を少なくしてあげてください」

「うっ………そんなに大変なのか? あいつ」

「そもそもお前がやらなければならない仕事と自分の仕事を両立してこなしてるからな。彼女の頑張りには感服だ。それでお前は何にも無しなんだから何かしてやった方がいいんじゃないか?」

 カイトは黙り込んでしまった。

 確かに、最近は出撃ばっかりで仕事には全く手をつけていない。これではリーダーの面子丸つぶれだ。本人はあまり自覚はないのだが。

「……つーか何でエリオットもトリガーもそんなに俺とエミリアの話になるとそう何となくムキになるんだ?」

 カイトが苛立った口調で言うと、二人はとぼけた顔をして、

「さあ?」

「自問してみろ」

「それは神のみぞ知るんだな、これが」

 何故かアクセルまで突っ込んできたんでダメージが1.5倍になった。

「俺を虐めて楽しいか?」

 カイトは明らかに怒っているのだが、表情は笑みのまんまである。

「いや、怒らせたら後で痛い目見るからあまり楽しくなんだな、これが」

「分かってるなら言うんじゃない!」

 カイトは三人に向かって、恐竜ですらビビって逃げてしまいそうな怒り声を上げた。

 これが日常である。何となく非現実だけど、これが彼等にとっては当たり前なのだ。伊達に変人暦=年齢と周囲から言われているわけではない。

「話を変えるが、今回は思いっきり奇襲で行くぞ。面子は何度も言うようだが俺、ガレッド、トリガーの三人だ」

「ねー、リーダー。私は?」

 横からズボンを引っ張る感触がしたのでカイトはその人物に返答する。

「アキナにユイは留守番。問答無用で留守番。そもそもこれ以上付いてきたらガレッドが疲労で死ぬ」

「あ、なるほどー」

 それなら最後の部分だけ言えばいいんじゃないかな、と突っ込んでくれた親切な人はいなかった。





「………………」

 スバル・シンヨウはフィティング内で囚人同然の扱いを受けていた。たまにゼンガーやエイジ達がスバルに話を持ちかけるが、彼は無言を貫いている。

「―――――――」

 その時、室内に男が二人入ってきた。シデンとエイジの二人である。

 二人が室内に入ってきた瞬間、またか、とスバルは思った。この二人は他の乗組員よりもここに来る比率が高い。

「今回はある人物のことを訊きたいんだ。僕達が知らない―――――カイト・シンヨウについて」

「―――――!」

 カイトの名前が出た瞬間、スバルは心臓が握り潰されたかのような不快感を体中に感じた。

(何で兄さんをこいつ等が!?)

 そのスバルの変化に気付いたシデンは再び言う。

「僕達二人は、彼と10年以上一緒に過ごした仲なんだ。でも、5年前から空白の期間が続いている。その五年間で、彼がどんな体験をしてきたのか、僕達は知らない」

 スバルは黙ってその言葉を聞いていた。

「1年前のシャドウミラーとの戦いで4年ぶりの再会を果たしたわけだけど、ろくに話さないうちにまた彼と離れ離れになった。そしてようやく再会できたと思ったら、今度は敵になっている………一体、彼に、君達に何があったの?」

 シデンの瞳はスバルを真っ直ぐに見つめていた。それは純粋に『答えを知りたい』と無言でスバルに語りかけてくる。

「…………敵に、話す事では有りません」

 スバルの言葉を聞いた瞬間、シデンとエイジは落胆の表情を隠せなくなった。しかし、それはすぐにスバルの言葉によって打ち崩される事になる。

「…………誰にも聞かれないように部屋をロックしてください。監視カメラや盗聴もOFFに」

「え?」

 二人はその言葉に戸惑いながらも、こういうこともあろうかと予め準備していた切り札、マラミッグに連絡を入れて、数時間誤魔化してくれるように連絡した。

 彼女は了解、と即答してくれた。どうやら彼女も話に興味があるようである。それはそれでかなりご都合主義な感じもしない事は無いのだが、三人はこの際気にしない事にした。

「シデン・イツキとエイジ・ヤナギ。ですよね? カイト兄さんから話は聞いています。兄さんからは口止めされていましたが………それでも貴方達には真実を知る権利があります。今回は一人、ギャラリーがいるみたいですが」






第五話「友情のダブルノックダウン」




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